第26話

実花は弾かれたように顔を持ち上げる。肩を寄せていたせいで突き合わせた顔は唇が触れそうなほど近く、否が応でも意識してしまうような体勢に実花も目を見張ったまま固まっている。


しばらくそんな実花を眺めていると、パッとそっぽを向いた実花は顔をまっ赤にして唇を噛んだ。赤い顔を隠すように手の甲で口元を押さえ、逸らされた双眸は動揺と羞恥に揺れている。


実花の反応を見て分かる通り、コンピューター室で仕掛けたキスは未遂だった。細い背中を抱いて、邪魔な髪を耳にかけたところまではよかったのだが、しかし、上を向かせようと顎をすくったところで我に返ったらしい実花に思いきり身体を突き飛ばされたのだ。


一瞬、何をされたのか分からないまま瞬きを返せば、目の前には口をパクパクとさせて今にも火を噴きそうなほど赤くなっている実花の姿。キャスター付きのイスに座っていたおかげで後ろへ転ぶことはなかったが、それでも初めてのキスに羞恥を爆発させた実花が再び唇を許すことはなかった。


それどころか近づくことすら許されず、あからあまに俺を避けようとする姿勢が部屋へ連れ込むに至った要因の一つでもあった。

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