第15話

「い、意味分かんない…」




しかし、見つめるだけの沈黙に耐え切れなくなったあたしはフルフルと首を振った。そのままイスの脚がキャスターになっているのをいいことに僅かだが距離を取る。


飛鳥は何も言わなかったが、引き留めもしなかった。


いつもなら冗談みたいな戯れにアタフタするあたしを笑おうとするくせに、今日の飛鳥は狼狽えるあたしを前にしても揶揄うどころか表情一つ変えることすらしない。


冗談にしようとするあたしを静かに見つめ、レンズの奥に潜んだ瞳がジリジリとにじり寄ってくる。




「妬くって、なに…」




思いのほか乾いた声が教室の空気を震わせた。


だって、あり得ない。


あり得ないのだ。


そんな打消しの言葉を吐こうにも、思考とは裏腹に宿ってしまった期待が胸を焦がして苦しくさせる。


小さい頃から目を惹くほどの容姿に群れを成す女性たちに嫉妬することはあっても、飛鳥があたしに同等の感情を抱いてくれているとは思ってもみなかった。


今日みたいに男の子から告白されて『どうせ実花の顔しか見てないんだからやめときなよ』なんて失礼な物言いをされることはあっても、さっきみたいに“妬く”と、独占欲にも似た言葉で縛られることがなかったからだ。


あとに続く言葉が見つからなくて目線を落とせば、今度は飛鳥の唇から漏れたタメ息がピンと張りつめた空気を震わせる。

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