第14話

思わず口を噤んだ。


失礼なことを言われて頭に血が上ったからじゃない。まっすぐにあたしを見つめる瞳が冗談を言ってるようには思えなかったからだ。


普段から食えない笑みで飄々としている飛鳥がこんなふうにあたしと向き合おうとするのはめずらしく、それでいて突き放すような声色に息を詰めたあたしは言い返すことも出来ずに飛鳥を見つめる。


飛鳥はそんなあたしを茶化すわけでもなく「実花」って名前を呼ぶと、いつの間にかスカートの裾を握り締めていたらしい手にそっと自身の手を重ね合わせた。自分のモノではない体温にピクリと指先が跳ね、ギ…ッと、足元を滑ったキャスターがまた距離を詰める。




「俺がいるのになんで他の男に優しくすんの」


「え…?」


「さすがの俺も妬くよ?」


「な…っ」




こてんと小首を傾げた飛鳥。180センチある男がそんな可愛らしい仕草をしたって可愛くも何ともない。


「な、なに言って…」


っていうか、妬くってなんだ。妬くって。


思いがけない言葉に口をパクパクさせて目を見張ると、飛鳥は抑揚のない声で「妬く」追い打ちをかけるみたいにあたしを見つめた。


距離が近いせいで目を逸らすことも出来ず、緊張の走る手にはゆるゆると細長い指が絡んでくる。


身動き一つで壊れてしまいそうな距離が怖く、混乱と触れ合う指先に顔が強張っているのが自分でも分かった。


幼馴染の飛鳥に緊張したってどうしようもないのに、思考が追いついていかない。追いついていかないのに、胸を叩く鼓動がどうしようもなく速い。

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