第11話

「なんで黙ってんの?」




甘いウィスパーボイスに顔を上げると、シニカルに微笑む飛鳥があたしを見ていた。イスごと近寄ってきたらしく、突き合わせた膝は今にもぶつかりそうである。




「別に…、喋ることないし」


「じゃあなんで着いてきたの」


「あ、飛鳥が怒ってるとか言うからでしょ…!?」


「怒ってる?」


「…さっき。久本君と別れたあとにそう言ってた」


「あぁ、あのこと」


「自分で言ったくせに忘れてたわけ…?」




明らかに忘れてましたと言わんばかりの飛鳥を怪訝に見つめる。すると飛鳥はあたしと目線の高さを合わせるように腰を屈め、


「いや、忘れてない」


フッと唇の端を持ち上げた。

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