第5話

代わりに吐息混じりのテノールが耳元で甘く囁く。


目の前には手を伸ばそうとしたのか、おかしな格好で固まっているクラスメイトの姿。後ろに人の気配を感じてパチパチと瞬きをしたあたしは、声の持ち主によって抱き込まれていた。


肩を掴まれ、傾いた背中が広い胸に凭れかかっている。


危なかった、と、危機を察するより先に、クラスメイトの唇が「あすか…」と、動くのが見えた。




「あす、か…?」


「ん?何?」


「…っ」




恐る恐る後ろを振り返ってみて驚愕。


なんでこいつがあたしの背後に立っているのか、自身の危険に対する怒りも含めて「何?じゃない…!!」と叫んだあたしは身体を捩ることで声の主から離れた。



「ちょ、危なっ」



思いきり腕を振ったからだろう。


今度は声の主――…飛鳥が後ろによろめく。けれども咄嗟に手すりを掴むことで体勢を整えた飛鳥は「いきなり何すんの」と、あっけらかんとした表情で言った。

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