第4話

面識などなかった。


そもそも深夜に待ち伏せされるような覚えもない。


せめぎ合った鼓動の鳴りを静めるように顎を引くと、他人の玄関先を占拠する彼女はどこにでもいる女子高生のように思えた。


茶色に染まった髪を胸下まで伸ばし、柔らかそうな猫っ毛には緩いウェーブがかかっている。


どこの学校のモノかは分からないが、白いブラウスに赤いストライプ柄のリボン。チェックのスカートにチャコールグレーのカーディガンを被せた姿は、街で見かける女子高生そのものだ。




「…悪いけど、退けてくれるかな?そこに座られたんじゃ、家の中に入れない」




なるべく柔らかな声を心がけて言う。


寝静まった夜はかすかな雨音に支配されているが、それでもここは幾人もの居住者が集うアパートだ。喧騒から離れた住宅地にひっそりと佇むアパート。声を張れば苦情へと繋がりかねない。




「ごめん、通らせてもらうよ」




押し黙ったままの彼女から反応を得ることは叶わず、状況を理解することを諦めた僕はポケットから鍵を抜きながら足を出した。


反らした横顔には音もない視線。近づくにつれて心臓を掴まれているかのような緊張を覚えるが、気づかないふりをする。


一歩。また一歩。


彼女を避けて玄関の正面に立った僕は鍵を差し入れる。

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