第20話

「意味分かんないんですけど…」


「だから"返す"って言ってんじゃん」


「だったら普通に返して下さい」




なぜ貸したモノを返してもらいに、わざわざ部屋まで連れて来られなくちゃならないのか。


部屋はワンルームといえば聞こえはいいが、でも実際は玄関を開ければ部屋全体を見渡せるような、狭いだけのアパートだ。


間取りはあたしの部屋と同じだが、でも全体的に家具やモノが少なく、生活感というものがほとんど感じられない。


台所を抜けた生活スペースにあるのは小さなガラステーブルと、部屋の大部分を占めるベッドだけ。置いてある物が違うだけでこんなにも部屋の雰囲気が変わってしまうのかと、つい見入ってしまう。



それに、だ。


男性の部屋にしてはきちんと片づけてある。


案外綺麗好きなのかもしれない。




「入って」




どこか目新しい雰囲気に見入っていたのも束の間、男はボーッとするあたしをよそに靴を脱いだ。同時にパタン、と、ドアが閉まる。




「…は?なんで?別にここでいいじゃない」


「いーから」


「はぁ!?」




男は一人部屋の中へ入ってしまった。


それを見て、呆然と立ち尽くすことしか出来ないあたし。入って――…とか言ったくせに、この場にほったらかしにしたりする?




「……、」




ありえない。


思わず自分勝手な背中を睨みつけたとき、ふいにピピッという電子音が聞こえ、やがてひんやりとした冷風が頬を撫でた。




「えあ、こん…?」

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