第19話

「…じゃあ、なんですか」


「うん。ケチャップとマヨネーズ返したくて」


「は?」




ケチャップとマヨネーズ…?


思いきり顔を顰めたあたしに男は「だからね?」と続けた。




「この前さ、アンタ俺にケチャップとマヨネーズ貸してくれたでしょ?忘れた?」




っていうか、さっきからなぜほぼ初対面の男に"アンタ"とか呼ばれなきゃならないのだろう。


しかし、調味料と言われ、確かに思い当たるフシがあった。でもそれは間違っても"貸した"わけではなく――…




「…貸した覚えはありません。勝手に取られた記憶はあるけど」




突然不法侵入された日のことを思い出して、ボソボソと男を睨む。


まさか睨まれると思わなかったのか、男はちょっとだけ驚いたように目を見張ると、でもすぐにその表情を柔らかくした。




「面白いこと言うね、あさひなは」


「はぁ?」


「まぁとにかく返すよ」




そう言って、なぜかガッシリと掴れた腕。


返そうとしてくれているのは分かる、が。




「は、ちょ、なに…!?」




勢いよく腕を引っぱられたせいで2、3歩たたらを踏んだ。


けれど男はあたしがよろめいたことなど気にも留めず、掴んだ腕を自分のほうへ引き寄せる。


途中、食べかけのカキ氷を拾い、なぜか向かった場所は106号室と書かれた男の部屋。鍵をかけていなかったのか、ドアはあたしたちを阻むことなく迎え入れた。

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