第17話

足元でジリ…ッと擦れる小石。


見張った目がどんどん大きくなっていくのが自分でも分かる。




「…な、」




なんで…?


という疑問は、こめかみを伝う汗と一緒に足元へ落ちてしまった。


まだ記憶に新しい漆黒の髪。相変わらず抑揚のない声は暑ささえ感じさせず、耳の遠くでは蝉の鳴き声がぼんやりと響いているだけ。


一体どういうつもりなのか、あたしの部屋の前にしゃがみ込んだ隣人は、涼しげなブルーのかき氷をシャリシャリと口へ運んでいた。



…意味が分からない。




「あの、何してるんですか…?」




隣人は玄関のドアに背中を預けたまま未だ食べることを止めない。


氷の山をプラスチックのスプーンで崩し、シロップに浸った氷を口の中へと流し込む。ふと口を開けたとき、少しだけブルーハワイの"青"に染まった舌が見えた。



それが酷く扇情的で、無意識に息を呑む。




「なんか、出店?みたいなとこで売ってた。わりと近所」




けれどジッと見ていたため、食べたいと勘違いされたのだろうか。




「まだ売ってると思うけど」


「…違うってば。別に食べたいわけじゃありませんから」


「なんだ。そうなの?」


「そうなのって…」




この男。


自分が部屋の前にいるから不審がられてるんだって、そう気づくことは出来ないのだろうか。

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