第16話

塾からアパートまでは電車とバスを乗り継ぎ、1時間ほどかかる。


塾が市街地の中心にあるのに対し、あたしが住むアパートは静かな住宅地の更に奥まったところにひっそりと建っている。


敷地の周りを深緑の垣根がぐるりと囲い、秋には色鮮やかな椿の花が、古びたアパートに不似合いな美しさを添えるのだ。


夕食の買い出しを終えてアパートへついた頃にはもう、時計の針は夕方の5時を回ろうとしていた。




「疲れたぁー…」




夏の暑さは容赦なく体力をも奪う。


夕方になっても全然衰えようとしない暑さにうんざりしつつ、あたしは自分の部屋を目指す。



建物の中に入ると、すぐ二手に分かれる廊下。


右に3部屋。左に3部屋。右から101号室と始まり、左に行くにつれて102号室、103号室と続いていく。


あたしは6部屋あるうちの105号室を借りているのだが、でも左へ曲がった瞬間、踏み出した一歩は無意識にその場へ留まった。




「あ、おかえりー」

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