第14話
その後、タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴った。
静寂を裂いた音にハッと目を見張ると、午後の講習が始まるまであと5分。昼休みの終わりを告げるチャイムが昼食の続きを急かし、生徒たちの張りつめた緊張も徐々に薄れていく。
やがて立ち去った男と入れ替わるように講師がやってくると、教室の雰囲気は何事もなかったかのようにいつも通りだった。
しかし――…
あたしの思考は昼休みで止まったまま。
その日、講師の必死な熱弁があたしの耳に残ることはなかった。
[ばいばい]
スッと目を細めて綺麗に微笑んだ隣人。
どうしても綾瀬という男の声が耳にこびりついて離れなかった。
あたしはそっとタメ息を吐いて、ペンを握った手に力を込める。
「……、」
あいつは隣人。
むしろ、他人。
たまたま隣の部屋に越してきて、たまたま塾が同じだっただけ。ただそれだけなのに――…
ギュッとペンを握り直したあたしは黒板を埋め尽くすほどの数式を必死に書き移すことで、綾瀬の姿を記憶の片隅へと追いやった。
そうでもしないと底の見えない漆黒に、本気で吸い込まれてしまいそうな気がしたからだ。
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