第13話

「面倒くさいんだよね、そういうの」




たぶん友達がいないとか、そういうことじゃなく、この男は自ら他人と関わることを避けているのだろう。


綺麗な顔には人の良さそうな笑みを貼りつけているくせに、淡々としたトーンの声がそれを物語っている。


まるで瞳の色と同じ。底無しの闇にそっと沈んでいくような、そんな冷やかな一面に目を奪われていると、




「あさひな」




ふいに名前を呼ばれ、ハッと顔を上げれば、そこにはニッコリと微笑む男の姿があった。




「…おい、コラ。馴れ馴れしいんだっつうの」


「君には言ってない」


「はぁ…!?」




男は本気でキレそうな拓には目もくれず、突然のことに「へっ?」情けない声を出してしまったあたしを楽しそうに見ている。


そして「あさひな」もう一度あたしの名を呼んだかと思えば、その唇は柔らかな弧を描いた。




「ばいばい」




ひらりと揺らいだ手。


何の予告も無しに踵を返したかと思うと、扉の向こうでは空気を孕んだ黒髪が優雅に靡いた。



教室は未だ静けさに包まれたまま、




「なぁ…っ、逃げんな!!」




廊下には拓の叫ぶような声が響き渡った。

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