第12話
男は口角を持ち上げて可笑しそうに微笑む。
その顔は嫌味なくらい整っていて、耳から垂れる黒髪がやけに知的な策士を思わせる。
「なに笑ってんだよ」
「や?別に」
男の態度が気に入らなかったのか、グッと眉を寄せた拓はゆっくりと腰を持ち上げた。
それを見て、男もわざとらしく緩んだ口元を引き締める。
この教室に、さっきまでの賑やかな昼食の風景は残されていない。
「お前さぁ、ムカつくってよく言われねぇ?」
ジリジリと詰まる距離。
一触即発な雰囲気を生徒たちみんなが固唾を呑んで見守っている。
あたしも「拓…!」思わず苛立った背中を呼び止めようとするが、でもその背中が綾瀬って男に向けられることはなかった。
静かに対峙したまま、拓の鋭い双眸が男を掴んで離そうとしない。
「聞いてんのかよ」
「さぁ、聞いてないかも」
クスクスと肩を竦め、さっきから挑発するようなことばかり言う。
けど――…
「俺、そう思われるほど人と関わらないから」
だから分かんないや。
そう付け加え、男はクッと喉を鳴らした。
蔑むような、突き放すような、全く温度の感じられない声だった。
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