第11話

それくらい男の風貌には目に見張るものがあったのだ。


それを物語るように、女子生徒たちの目にはピンク色のハートマークが浮かんで見えている。いや、中には頬を染めてしまった男子生徒も何人かいたかもしれない。


男は入口に佇んだまま扉に凭れるように肩を寄せると、その漆黒の瞳にあたしの姿を映した。



黄色い声には見向きもせず、フッと持ち上げられた唇。




「ねぇ、ここって特進?」


「へっ?」


「クラス」




ちょんちょん、と自分の足元を指差す男。


一体何を言うのかと思えば特進?クラス?


あたしの頭の中はなぜボロアパートの隣人がここにいるかってことだけなのに――…




「違げぇよ。秀才」




しかし、そんな疑問も拓の不機嫌な声に掻き消されてしまった。


掻き消されて、急に現実へ引き戻された気がして、男を睨みつける拓にハッとする。




「ちょっ、拓…!」


「夕輝は黙ってろ」


「だ、黙ってろって…」




慌てて割って入ろうとするも、すでに拓の双眸は隣人の姿を捕らえて離さなかった。




「誰、アンタ」


「日向井綾瀬」


「違う、違うっつうの。誰が名前なんて聞いたよ」


「誰って、君じゃん」




続いたのは舌打ち。


もちろん拓の。


そんな拓に楽しそうに口元を歪ませたのはアパートの隣人――…もとい、日向井綾瀬(ひむかいあやせ)という男のほうだった。




「あー…、そういうことか」

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