第9話

「見かけによらず、ずいぶん乙女ちっくなことすんね」


「どーいう意味よ…」




ムッとして睨めば、拓はニッヒッヒといやらしい笑みを浮かべた。


こういうイタズラな笑顔さえ黄色い声が上がるほど整っているんだろうけど、でもあたしにとっては憎たらしいの何者でもない。




「どれ、拓様に見せてみ?」


「見せるかっ」




伸びてきた手から手帳を遠ざけ、そのままバッグへと避難させる。


手帳とはいえ、中には日々の出来事が事細かに記されているのだ。



つまりは手帳兼、日記。


見られるとか冗談じゃない。




「もしかして俺への愛でも綴られてんじゃねぇのー!?」


「綴られてませーん」


「またまたぁ」


「いや、ほんとに…」




勝手に盛り上がっている拓を尻目にふぅ、と小さく息を吐いた。


すっかり空になったお弁当箱をハンカチで包み、何気なしに窓の外へ目を向ける。空は雲ひとつない晴天で。容赦なく降り注ぐ陽射しに、外を歩く人たちの表情はグッタリと落ちている。




「うわ、暑そー…」




視線の先を追ってきたのだろう。


ぼんやりと聞こえたのは拓の声。


机の上に頬杖をつき、汗を滲ませながら行き交う人たちをダルそうに見下ろしている。そんな拓の声に心の中で頷いたとき。


突然、勢いよく扉が開いて、それを合図に昼休みの喧騒がプツリと止んだ。




「あー…、れ?」




どこか間の抜けた声に入口へと集まった視線。


それはまるで太陽を追い求める向日葵のようで。生徒たちの興味は入口に立つ人物へと向けられている。

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