第8話
無邪気に笑ったかと思えば、拓はあたしのお弁当箱からハンバーグをひとつ奪っていった。
指で摘ままれたハンバーグはあっという間に胃の中へ納まり、それと同時に、あたしの背中には敵意を孕んだ視線が遠慮なく突き刺さってくる。
そんな視線を受け流しながら子供みたいに口をモグモグさせている拓を見て、あたしはタメ息を漏らすしかなかった。
「はぁ…、おいし?」
「まじ最高。ゆうを嫁に迎えたいくらい」
「勘弁して」
別に付き合ってるわけじゃない。
けど拓の整った顔立ちと薄っすらと焼けた肌は健康的で。今風な雰囲気と明るい性格も手伝ってか、拓は目に見えてモテた。
そんな拓があたしとお弁当なんか食べているもんだから、拓を狙っている女子生徒たちの嫉妬は当然あたしへと向けられる。
「罪な男だよね、拓って」
「んー?」
「ううん、平和だなって」
首を傾げた拓にフルフルと首を振るう。
そして全部食べられる前に卵焼きへ箸を伸ばそうとしたとき。
「つーか、ゆうって手帳とか持ち歩く人?」
「へ?」
ふと拓は机の端に積み重なったテキストの山を指差した。
無造作に重なったテキストの間に見えたのは、黒地にバラの花がプリントされた小さな手帳。
「あー、これ?」
卵焼きから手帳へ視線を移したあたしは「まぁね」と、ちょこんと見えていた手帳をテキストの山から引き抜いた。
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