知的な策士
第7話
8月3日(やっぱり晴天)
「あー、くそ暑ちぃー!」
夏期講習もまだまだ前半。
冷房はきいているものの、一部屋に30人以上詰め込まれた教室は完全にキャパシティーを超えている。
ちょうど午前中の講義を終えて昼休みを迎えた今も、教室の密度は変わらなかった。
こんな猛暑日に外へ食べにいく――…という選択肢が無いのは、みんな一緒だった。
「夕輝チャーン。そんな涼しそうな顔して、お前暑くねぇの?」
ふと持参したお弁当を突いていると、あたしの正面に座った男が下敷きをうちわ代わりに使いながら言った。
一つの机を挟み、前の席に後ろ向きで座っている男は食欲が無いのか食事を摂るわけでもなく、ダルそうに机の上に突っ伏している。
人工的に作られた風がパタパタと前髪を揺らし、茶色く染まった髪の隙間からは、シルバーのフープピアスがキラリと光って見える。
「なら、その暑苦しい髪でも丸めちゃえば?」
あたしはちらり、黙々と箸を運びながら視線だけを男に向けた。
「さすが夕輝!相変わらず可愛くねぇな!」
「拓がうるさいからだよ」
「てめぇっ」
言い返したらわざとらしい舌打ち。
拓とは高校が一緒で、それがきっかけで塾でも話すようになったのだが、元々拓はクラスの中心でムードメーカーをしているような目立つ生徒だった。明るくて誰にでも砕けた性格なのが彼のいいところではあるが、でもたまにそのハイテンションな一面にはついていけないときがある。
特に今日みたいな暑い日なんかは会話を成り立たせるのも億劫で、つい蔑ろな対応になってしまうのも仕方がない。
「あー…っと!そのハンバーグ、もーらい!」
「え!?あっ」
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