第3話
7月29日(晴)
ずっと空き部屋だった106号室に新しい住人が引っ越してきた。
夏期講習を終えて、夕食の材料を片手に帰宅したとき。ちょうど半開きになったドアの隙間から、たくさんの段ボール箱に囲まれた背の高い男性の姿が見えたのだ。
後ろ向きで顔を見ることは出来なかったが、肩にかかるほどの漆黒の髪が酷く印象的で、一瞬目を奪われてしまったのを覚えている。
「こんなボロアパートに…」
よく引っ越してくるよね。
なんて本音はつぎはぎだらけの壁に吸い込まれたことだろう。
メリットと言えば、家賃が半端なく安いってことくらいだけ。現に6部屋あるうちの半分に人が入っていないのだ。
「確か…」
他の部屋にはホステスをしている年齢不詳の女性と、金髪にモヒカンという、いかにもバンドやってます的な男性が住んでいる。
もちろん喋ることもなければ、顔を合わせることすらほとんどないんだけど。
「変わり者、なのかな」
106号室の住人も。
あたしは開けっぱなしのドアをもう一度見つめたあと、興味なさ気にその視線を外した。
隣に越してきた男性とも、きっと交流なんてないと思ったからだ。
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