第23話

男性は指に引っかけたカップを口元へ運ぶと、


「朔夜」


おもむろに兄の名前を呼んだ。


冷蔵庫に寄りかかっている男性に「何?」と反応したのは兄だけじゃない。ピク、と、カップを持つ手が無意識に止まった。




「この間の話だが、オーナーには話をつけてある。働く気があるなら今夜から出勤しろってさ」


「今夜って、何も用意してないんだけど」


「スーツは?」


「持ってるけど置いてきた。邪魔になるかと思って」


「お前…、仕事する気でいたなら用意しとけよ」


「今日から働けって言われると思わなかったし」


「しょうがないからしばらくは俺のを使え。あとはオーナーに言えばスーツ代の前借りくらいしてくれんだろ。お前が働くって言ったら、スキップしそうな勢いで喜んでたから」


「そんな期待されても困るんだけど…」




肩を竦めた兄が苦笑する。


二人が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

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