第22話
そう言えば、昨日から何も食べていなかった。
泥酔した父と一緒に食事をする気にはなれず、昼間は決行する計画のことで頭がいっぱいだった。
今だって本当はのんびりカフェオレを飲んでいられる状況ではないのに、柔らかなミルクの匂いに忘れかけていた空腹が刺激され、カップを包む手にも力が入る。
「…いただきます」
そっとカップに口づけると、ソファの傍らに立った男性からは「美味しい?」と気遣うような声。すかさず顔を上げたあたしはピンと背筋を伸ばして頷いた。
「あっ、はい。美味しいです…」
「そ。よかった」
物静かなトーンにちらりと視線を上げた。男性は自分のコーヒーを取りに行ったのか、再びキッチンのほうへ戻っていく。
しなやかな黒髪には一切癖がなく、シルバーフレームの眼鏡をかけた風貌は知的な印象を見た者に与える。
レンズを介した双眸は黒曜石を宿しているかのようで。乏しい表情は何を考えているのか分からなかった。
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