第21話

男性はキッチンに入ってお湯を沸かしていた。カウンターごしに冷蔵庫から牛乳を取り出そうとする姿が見え、何だかものすごく手間をかけさせてしまったみたいで居た堪れない。


思わずソファに寄りかかったあたしは、兄の脇腹を肘で突いた。




「別にコーヒーでいいのに…」


「なんで?」


「だって…」


「いいんだよ。遠慮しなくて」




兄は自分のことのように言うが、キッチンからは「お前が言うな」と、兄の身勝手な言動を咎めるような声がすかさず入った。


ハッと弾かれたように顔を上げると、やがてマグカップを二つ持った男性がリビングスペースまで戻ってくる。




「お前の場合、ちょっとは遠慮しろ」


「してるよ。朝早くに押しかけて悪いなって思ってる」


「どーだかな。はい、どうぞ」


「あ、りがとうございます…」




差し出されたカップを受け取り、恐る恐る頭を下げる。もう一方のカップが兄の手に渡ると、丸みをおびたカップからはミルクと砂糖の甘い匂いがふわりと香った。

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