第20話

けれど男性は中に入るよう声をかけてくれた。


兄にも「朱里、おいで」と呼ばれ、言われるがまま玄関に上がって靴を脱ぐ。そのままリビングに通されたあたしたちは、ソファに座るよう促された。


一人暮らしをしているのか、キッチンと一緒になったリビングには無駄なものが一切無い。部屋の隅にはテレビとスピーカー。リビングスペースにはテーブルと二人掛けのソファがあるだけで、キッチンに面したダイニングには殺風景な空間が広がっているだけだ。


リビングを挟んで二つドアが見えたが、その奥に誰かが居るようにも思えなかった。




「コーヒーでいいか?」


「紅茶とかないの?」


「紅茶?朝から面倒くさいもの注文するな。コーヒーでいいな?」


「結局、コーヒー一択なんじゃん」


「コーヒーしか置いてないからな」


「じゃあさ、せめてカフェオレとかにしてくんない?ミルクいっぱい入ってるやつ」


「お前、コーヒー苦手だったか?」


「ううん、飲めるよ」




兄がちらりとあたしを一瞥する。




「あぁ、なるほど。そっちか」


「そういうこと」


「……、」

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