第18話

「…ここ?」




若い女性が好みそうなマンションだな、と思う。


初めて訪れる場所に恐る恐る聞いてみるも、建物に向かって歩き出した兄に答える気はないようだ。


代わりに「来て」と手招きながら、オートロックのボタンを操作している。漠然と慣れてるな、と思った。




「ここ、知り合い住んでんの」


「知り合い?」


「そう」




頷いた兄に首を捻る。


すると静かなエントランスにはインターホンの軽快なチャイムが響き、スピーカーからは≪はい…≫と、見知らぬ男性の声が聞こえた。




「ごめん、着いた」


≪分かった。今、開ける≫




家主の声に合わせて自動ドアが口を開く。


知り合いって…大学の知り合いだろうか?


マンションの雰囲気から、てっきり女性の声が聞こえてくると思っていたあたしはますます疑問符に巻かれる。


しかし、言葉を濁された時点で明確な答えなど得られないという確信もあったため、大人しく兄のあとを追うことにした。


エレベーターで3階まで上がり、兄は【302】と書かれたドアの前で足を止める。そして慣れた手つきでドアホンを押すと、玄関のドアはすぐに開いた。

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