第15話

「……、」




ガタンゴトン、ガタンゴトン。


電車が揺れるたびに互いの肩がそっとぶつかる。


兄はずっとあたしの手を握ったままだ。


先の見えない不安に押し潰されないように、行き先を見失わないように、手を繋ぐことで優しく導いてくれる。


出会ったときからそうだ。


13歳のとき、あたしは兄の"妹"になった。


離婚して一人身だった母が、兄の父と再婚したのだ。



当時、兄は高校3年生だった。


ずっと一人身だった母に『結婚したい人がいるの』と言われ、幼いながらも必死に育ててくれた母の背中を見てきたあたしは結婚に賛成はしたものの、新しい環境に順応出来るほど器用ではなかった。


初めて顔を合わせたときも上手く喋れず、一緒に暮らすようになってからもよそよそしい気持ちが邪魔をする。


そんな中、なかなか馴染めずにいたあたしを一番に気にかけてくれていたのが兄だ。


家では宿題なんかをよく見てくれ、さり気なく甘えさせてくれる。


高校生だった兄にも自分のコミュニティがあっただろうに、学校に行っているとき以外はほとんどあたしの傍にいてくれた。


そんな兄の優しさがくすぐったく、誰かと一緒にいられることに心が震えたのは初めてだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る