第12話

「荷物ってそれだけ?」


「うん、あんまり多くても邪魔になるかなぁと思って」


「着替えは?」


「大丈夫。全部入れた」


「ならいいけど…。まぁ、必要なら買えばいっか」




そういう兄の荷物も少なかった。肩にかけた大きめのトートバッグにもだいぶ余裕が見える。


これが、これから家出をする人間の荷物なのだろうか。




「そろそろ行こうか」




兄はあたしの隣に並びながら穏やかに笑った。


そしておもむろにあたしのバッグを掴むと、踏み出した一歩が廊下へと向かって歩き出す。




「あ、待って。自分で持つよ」




部屋を出ようとする兄をすかさず止めた。決して遠慮したわけではなく、持ってもらうほどの重さではなかったからだ。




「いいよ。そんな重くないから」


「なおさら自分で持つよ…っ」




しかし、兄は「大丈夫だから」と言って、掴んだバッグを反対側の手に持ち替える。


空いた手が、あたしの手を優しく引いた。

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