第10話

そうだ。


あたしがやらなきゃ意味がない。


これは、復讐なのだ。


ダメだって言われる前に包丁を奪ったあたしは、浴槽の中を覗き込んだ。中ではガムテープを巻いた父が未だ深い眠りについている。


例え刺したときの衝撃に目を覚ましたとしても、四肢の自由を奪っていれば暴れられないで済む。


迫りくる終末から視界を遮ったのは、ここまで育ててくれたせめてもの情けだ。


例え一時でも、父は確かに"父親"だった。




「お兄ちゃん、ごめん…」




ギュッと握り締めた包丁を力いっぱい振り下ろす。


人の一生がこんなにもあっ気なく終わってしまう。


父の命が、この狭い風呂場で孤独に消える。



―――…兄の大切な人を奪った瞬間だった。

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