第9話

兄が父の腹に狙いを定めて包丁の柄を握り直すと、濁った刃にはあたしの醜い姿が映った。


振り下ろせばすべてが終わる。


父の犯した罪から解放される。


しかし、罪の事実が消えるわけではない。




「…待って、あたしにやらせて」




だったら、せめて…


あたしは兄の手に自分の手を重ね合わせた。




「朱里…!」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。失敗なんてしないから」


「そういうことを言ってるんじゃなくて…!」


「うん、分かってる。心配してくれてるんでしょ?」


「……、」


「でも、ごめんね?」




重ねた手に力を込める。


すると兄の反対を示した瞳が複雑に揺れた。




「あたしがやらなきゃ、意味がないんだよ」

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