第6話
ここまで上手くいくと思ってなかったあたしは、父の無防備な姿に安堵と高揚を覚える。
やっとここまできた。
酒臭いリビングに静けさが訪れたときにはもう、父の意識は深い夢の底まで落ちていた。
殺害に至るまでの計画は緻密だった。
「朱里」
ふと名前を呼ばれてハッとする。父が堕ちていく様を記憶の片隅に追いやったあたしはすぐさま兄を見つめた。
「…あ、ごめん。何?」
今、あたしたちが遂行すべき問題は一つだ。
上の空だった思考を改めると、兄も「いや、何でもないよ」と、レインコートのフードを頭に被せた。そして眠りこける父に目線を移し、父の腕を持ち上げる。
「朱里は終わるまで部屋に戻ってていいよ。あとは俺がやるから」
「え?」
一瞬、何のことか分からず、怪訝な顔で兄を見返した。
兄は持ち上げた腕を自分の肩へ回させると、ぐにゃぐにゃと覚束ない身体を支えるように父を立たせる。
俺がやるから――…の意味を察し、たった一人で計画を実行しようとしている兄に、思わず声を上げた。
「待って!あたしも…っ」
「いいから。あとは俺一人で大丈夫」
「けど…っ」
「朱里」
食い下がるあたしを見つめ、無言で"来るな"と制した兄が父を担いでリビングから出て行こうとする。きっとこれから背負うべき罪を考えて気遣ってくれたのだろう。
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