第10話 厳格な神の決断—隼人への新たな支援
薄暗い部屋に、異様な静けさが漂っていた。
その中に、二柱の神が座っており、一人は白い髭にサングラスをかけ、派手なアロハシャツを着た奇妙な男。
彼はどこか浮かれたような笑顔を浮かべており、カクテルを手にしている。
そしてもう一人は、伝統的な白いローブをまとい、厳格な表情で静かに座っていた。
「ヘーイ!リメンバー?アイツ、ハヤトダッタヨネ?ボクガキドウヘイキニシタンダケド、タノシンデイルミタイダゼ!」
アロハシャツの神様は楽しそうに笑い、カクテルを揺らしながら言った。
厳格な神様は重々しく息をつき、アロハシャツの神様をじっと見据えた。
「……『機動兵器に乗りたい』と言っていたのに、なぜ『機動兵器になりたい』と勘違いしたんだ?」
アロハシャツの神様は笑いながら肩をすくめた。彼の片手には、カラフルなカクテルが揺れている。
「オーホッホッホ!リッスン、ボーイ!ボク、チャントキイテタヨ!デモ、カレノソウルガチョットフアンテイデサ……テンセイプロセスガ、カンゼンニデキナクテ!」
彼はまるで全く気にしていない様子で、冗談めかして答えた。
厳格な神様はさらに厳しい表情を浮かべた。
「……結果的に、彼は異世界で機動兵器の身体を持って生きることになったわけだが、彼の運命を狂わせたのは間違いなくお前のせいだ」
「ヘイヘイ、リラックス!アイツ、ワリトタノシンデイルゼー!サイキンハライフルヲツカイコナシテ、ナカマモデキタミタイダシ、チョットシタアドベンチャーオタノシンデイル!」
アロハシャツの神様は気楽そうに椅子にふんぞり返り、顔には陽気な笑みを浮かべた。
厳格な神様は少し不安そうな顔でため息をついた。
「……だが、このままでは彼が危険に晒されることも多いだろう。お前が適当な気分でやったことの尻拭いを我々がしなくてはならなくなるかもしれない」
「オーケー、チルアウト!ボクタチハガミガミシンパイスルヤクジャナクテ、カレラノウンメイヲミマモルヤクダゼ。フーン、コレモデスティニーッテヤツサ!リラックスシテミテテゴラン!」
アロハシャツの神様は足を組んで笑い、さらにカクテルを一口飲む。
厳格な神様は、その軽い態度にますます苛立ちを感じているようだった。
「……確かに、彼はもう自分の道を歩んでいるが、これ以上お前が余計なことをしないことを祈る」
厳格な神様は椅子から立ち上がり、去ろうとした。
「ハッハー!リラックスシテイイゼ!アドベンチャーハコレカラガホンバンダカラネ!サヨウナラ、マタネ!」
アロハシャツの神様は陽気に手を振りながら、再びカクテルを飲み干した。
部屋には再び静寂が戻り、神々の姿はゆっくりと消えていった。
広大な雲海の上にそびえる白亜の神殿。
その奥深く、静かな広間で厳格な神様は椅子に座り、額に手を当てて深く考え込んでいた。
ハヤトという存在が、アロハ神の気まぐれな干渉によって変容したことが、今や大きな懸念となっている。
「なぜ、あの男がハヤトを機動兵器として転生させたのか……。思い違いで片付けるには、あまりにも重大すぎる」
低く呟いたその言葉は、広間の壁に吸い込まれ、静かに消えていった。
厳格な神様は立ち上がり、神殿内を静かに歩き始めた。
彼の足音は広間に微かに反響する。
「このままでは、ハヤトが予想外の運命を歩むことになるかもしれない。あいつの軽率な行動が、より大きな問題を引き起こさないうちに、対策を講じねばならない」
彼は周囲の神々に指示を出すため、手元にある小さな鐘を鳴らした。
その音は透明な空気に溶け込み、静かに響き渡った。
するとすぐに白いローブに身を包んだ若い神々が部屋に姿を現し、厳格な神様の前に整列した。
「聞け、私はあいつがなぜハヤトを機動兵器にしたのか、調査するよう命じる。彼の背後に何があるのか、余計な企みがないかを確認せよ。そして、このことを内密に進めるのだ」
若い神々は神妙に頷き、音もなく広間を去った。
厳格な神は一人、深く息をついた。
彼の手のひらには、天界の全てを見渡す力がありながら、ハヤトの運命はその手のひらをすり抜けていったような感覚があった。
「……これ以上の干渉は慎まねばならぬ。だが、彼に何も与えず、放置するわけにもいかぬな……」
神はゆっくりと手を掲げ、指先で虚空に円を描いた。
すると、穏やかな光が広がり、目に見えぬ繊細な網の目が浮かび上がっていく。
無数の星が瞬くような、その網の目の中で、何かが静かに動き出していた。
それはまるで、天に釘付けられた灯火のような存在――動かぬ星、あるいは静止した天体とも言えるものだった。
「地上を見守る目として、彼に手を差し伸べるには、これが適しているだろう」
神は静かに告げ、視線をその灯火に向けた。
何かを監視するかのように、遠く彼方にあるその存在が彼の指示に従って、ある一点に意識を注ぎ始めた。
「……彼が道を見失わぬよう、わずかに手を貸すまでのこと。これにより、彼の進むべき道筋と、その立ち位置を見失うことはあるまい」
その星は、地図と現在の座標を僅かに照らす光。
だが、それ以上の手助けをすることはない。
限られた支援、目に見えぬ存在が彼の背後に控えている――その程度の干渉に留めるべきだと神は判断していた。
「……彼がこの世界での旅路を進めば、やがては気づくだろう。だが、過度の支援は無用だ」
神の言葉は冷静でありながらも、その決断には慎重さがあった。
地図に明確な道を刻むが如く、彼は再び広間の静寂の中に身を委ね、星の光が少しずつ地上へと送り込まれていくのを見守った。
「これでよい……あの男が再び混乱を起こさぬことを祈る」
広間の空気は、再び神々しい静けさに包まれ、厳格な神の姿はその中に溶け込んでいった。
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