第9話 冒険者登録

 隼人、ノア、リーシャの三人は、ついに大きな町の門の前に立っていた。

 石造りの壁が高くそびえ立ち、その圧倒的な存在感が彼らを迎えていた。

 門には数人の衛兵が立っており、町に入るための手続きを行っているようだった。


 ノアが息をつきながら言った。


 「さあ、ようやく着いたね」


 隼人は門を見上げながら少し驚いた表情を見せる。


 「でかい町だな……」


 リーシャが促した。


 「早く手続きを済ませて入ろうよ」


 三人は門の方へと進んだ。

 門の前に並ぶ人々に混じって順番を待ち、やがて三人の番が来る。

 衛兵が目を光らせながら、彼らに声をかけた。


「ここに入るためには保証金が必要だ。一人当たり銀貨5枚だな」


 隼人は思わずポケットを探り、顔をしかめる。


「え……銀貨? いや、俺、今はお金を持ってなくて……」


 衛兵は少し眉をひそめながら隼人を見た。

 その時、ノアが隼人の前に立ち、財布を取り出す。


「私が彼の分を払います。銀貨10枚ね、私の分と合わせて」


 ノアが銀貨を衛兵に差し出すと、彼はそれを確認してから頷き、通行証を渡してきた。


「ほら、これで問題ないよ」


 隼人はその言葉に感謝し、少し申し訳なさそうに頷く。


「ありがとう、ノア。早めに返すよ、必ず」


 三人は無事に町の中へと入った。

 中は活気にあふれており、商店や露店が所狭しと立ち並び、人々のざわめきが街中に響いていた。

 リーシャが口にする。

 

「さあ、まずは冒険者ギルドだね」


 隼人は少し戸惑った表情を浮かべた。


「どっちに行けばいいんだ?」


 ノアが衛兵の方に振り返り、声をかけた。

 

「すみません。冒険者ギルドに行きたいんですけど、道を教えてもらえますか?」


 衛兵は通行人を見送りつつ、ノアに答えた。

 

「ギルドはこの道をまっすぐ進んで、中央広場の少し先にある大きな建物だ。看板が出てるからすぐにわかるはずだ」


 ノアが礼を言い、三人は再び町の通りを進んでいった。

 

「ありがとうございます」


 町の喧騒と活気に包まれながら、三人は中央広場へと向かう。

 ようやく目的地である冒険者ギルドの大きな扉の前にたどり着く。


 隼人は一息つき、扉を見上げながら呟いた。

 

「ここが……冒険者ギルドか。さあ、入ろう」


 ノアとリーシャも頷き、三人は冒険者ギルドの扉を開け、中へと入った。

 ギルド内は広々としており、忙しそうな冒険者たちが各々依頼を受けたり報告をしていた。

 奥のカウンターには数人のギルド職員が忙しそうに仕事をこなしている。


 隼人は少し緊張しながらカウンターに向かった。

 そこで彼らを出迎えたのは、優雅な身のこなしと美しい女性だった。

 彼女は長い金色の髪を背中に流し、エメラルドのような緑色の瞳で隼人たちを見つめている。

 彼女は微笑みながら柔らかな声で話しかけてきた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。今日はどうされましたか?」


 隼人は少し息をついて答えた。

 

「冒険者になりたいんですけど、手続きはどうすればいいですか?」


 女性は軽く頷き、机の下から登録用紙を取り出した。

 

「では、まずこちらの登録用紙に名前や出身地、そして職業などの情報を書いてください。それと……こちらが同意書です」


 彼女が差し出したもう一枚の書類は「同意書」で、その内容は少し重々しいものだった。


「この同意書には、冒険者としての活動中、ギルドが生命の保証を行えないことが明記されています。危険な依頼やモンスター討伐など、命を懸けることになる仕事が多いため、理解の上でサインをお願いします。もちろん、ギルドはできる限りのサポートをいたしますが、最終的な責任は冒険者自身にありますので、ご注意ください」


 隼人はその説明を聞きながら、同意書に目を通した。

 内容には、冒険者としての活動に伴う危険と、その結果についてギルドが一切の責任を負わない旨が記されていた。


「……生命の保証はできない、か」


 隼人は少し考え込んだが、すぐにペンを取り、サイン欄に自分の名前を書き込んだ。

 

「大丈夫だ、これくらいの覚悟はあるさ」


 同意書にサインした後、登録用紙へ記入を進めていく。

 しかし、ふと書く手を止め、隼人はノアとリーシャの方を見て小さな声で尋ねた。


「なあ、出身地ってどう書けばいいんだ? お前たちの村の名前ってなんだ?」


 ノアは少し考えた後、答えた。

 

「私たちの村は『エルズ村』だよ。徒歩で一週間はかかるし、ここら辺ではあまり知名度はないかな」


 隼人は感謝の気持ちを込めて答えた。

 

「エルズ村か……ありがとう」


 隼人は「出身地」に『エルズ村』と記入し、「職業」には少し悩んだが、とりあえず「戦士」と書いた。

 だが、ふと疑問に思い、書く手を止める。

 (待てよ……この世界の文字なんて俺、知らないはずじゃ……?)


 隼人はペンを止め、用紙をじっと見つめた。

 読めるはずのない文字が、自然と理解できていることに違和感を覚える。


(そうか……俺の機動兵器としてのシステムが、勝手に文字を翻訳してくれてるのかもな)


 隼人は納得し、問題なく記入を済ませた。

 サインもすらすらと書き終え、用紙を受付嬢に返す。


 受付の女性は用紙を確認し、微笑みながら言った。

 

「これで登録は完了です。どうぞ、冒険者としてご活躍をお祈りいたします」


 隼人はほっと息をつき、手続きを終えたことに安堵する。

 これで、彼は正式に冒険者となり、この世界で新たな一歩を踏み出す準備が整った。


 隼人は微笑みながら言う。

 

「さあ、これで冒険者だな」


 ノアとリーシャも笑顔を見せた。

 

「先に宿を取らない? 泊まれなくなっても困るし」とノアが提案した。


 隼人は提案に頷き、受付の女性に尋ねた。

 

「すみません、この町で泊まれる場所を教えてもらえますか?」


 エルフの受付嬢は頷きながら地図を取り出し、町のいくつかの宿を指し示した。

 

「町の中心には『ブライトムーン宿』という評判の良い宿があります。もう少し安い宿なら、ここから少し離れた『夕凪亭』もおすすめです。どちらも安全で快適ですし、格安で泊まれますよ」


 隼人は地図を確認し、ノアとリーシャと顔を見合わせた。

 

「どうする?」と隼人が尋ねると、ノアが答えた。

「そうだね……『夕凪亭』にしようか」


 隼人は同意し、三人は宿へ向かうことに決めた。


 隼人たちは受付嬢から紹介された『夕凪亭』というリーズナブルな宿に向かって歩いていた。

 町の中心から少し外れた静かな場所にあるその宿は、商業地区の喧騒とは対照的に、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 町全体は石造りの建物が立ち並び、ところどころに広がる緑の景色が彼らを包み込んでいる。


「ここが『夕凪亭』か……思ったよりも静かで良さそうだな」


 隼人は感想を述べながら、宿の正面に立ち止まった。


「そうだね。長旅にはこういう落ち着いた場所が一番かもしれないね」


 ノアも微笑んで、隼人に同意した。

 リーシャは腕を組みながら頷いた。


「よし、ここで一週間くらい滞在して、しっかりと準備を整えよう。冒険者としての仕事もこれから本格的に始めなきゃいけないしね」


 三人は宿の扉を開けると、温かい雰囲気に包まれたロビーが広がっていた。

 木製の家具や暖かい色合いの装飾が、まるで故郷に帰ってきたような安心感を与えてくれる。


 カウンターには、年配の女将が立っており、優しく微笑んで彼らを迎えた。


「いらっしゃいませ。『夕凪亭』へようこそ。お泊まりですか?」


 ノアが一歩前に出て、女将に答えた。


「はい、三人で泊まりたいんですが、しばらく滞在する予定で……一週間くらい」


 女将は軽く頷きながら、にこやかに言った。


「それなら少し長めに泊まるんだね。そういうことなら特別に、七泊で銀貨十枚にしておくよ。朝ごはんもつくし、しっかり休んでおくれ」

「ありがとうございます」


 ノアはすぐに財布から銀貨を取り出して支払った。

 隼人は感謝の意を込めて微笑んだ。


「ノア、ありがとう。本当に助かるよ」

「気にしないで」


 ノアは優しく微笑んで、隼人の言葉に答えた。

 女将が部屋の鍵を差し出しながら、三人を案内した。


「さあ、お部屋は三階になります。こちらへどうぞ」


 三人は女将に続いて階段を上がり、清潔感のある三人部屋に案内された。

 窓からは中庭の景色が見え、静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。

 部屋にはそれぞれベッドがあり、三人が十分にくつろげるスペースがあった。


 隼人は部屋に入ると、すぐにベッドに腰を下ろし、安堵の表情を浮かべた。


「ここならしっかり休めそうだ。これでしばらくは拠点にできるな」


 ノアも嬉しそうに頷いた。


「うん、これで落ち着けるね。町を拠点にして少しずつ仕事も探していける」


 リーシャは笑顔を浮かべながら、ベッドに飛び込んだ。


「ふぅ、やっと体を伸ばせるわね。ちょっとだけ休んで、後で町を探索しに行こうか?」


 隼人もベッドに横になり、満足げに頷いた。


「そうだな。しっかり休んでから、いろいろと準備を始めよう」


 こうして、三人は大きな町『夕凪亭』を拠点に、しばらくの間、滞在することになった。

 新しい生活の始まりに期待を寄せながら、明日からの冒険者としての活動に備え、心身を休めたのだった。

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