第6話 冒険者への道

 ゴルドが隼人に補助装置を渡した後、隼人はその小さな機械を手に取り感謝の気持ちを抱いていた。

 しかし、すぐにお金のことが気にかかり、どうやって支払いをするか悩んでいた。


「ゴルドさん、これ……いくらくらいするんですか?今はお金がなくて……」


 隼人は申し訳なさそうにゴルドに尋ねた。

 ゴルドはニヤリと笑いながら肩をすくめた。


「坊主、今のお前には金はないだろうし、俺もお前みたいな面白い奴に興味があるんだ。だから今回は特別だ。だが次に頼む時はちゃんと稼いできてもらうぞ」


 隼人はほっと息をつきつつも、どこかでお金を稼ぐ必要があることを感じていた。

 その様子を見ていたゴルドは、少し考え込んだ後、ニヤリと笑って言った。


「金を稼ぐって言やあ、冒険者だな。村じゃあなかなか仕事も少ないだろうし、王都に向かう途中の大きな町にギルドがある。そこへ行けば、簡単な依頼から大きな仕事まで幅広く揃ってる。まずはそこで何か仕事を探して金を稼いでみるといい」


 隼人はその言葉を聞き、ゴルドの言うことに納得した。

 異世界で生きていくためには冒険者として仕事を探すのが最も現実的な選択肢だった。


「そうですね。お金を稼ぐには、まずはギルドで仕事を見つけるのが早いとノアとも話してました」


 ゴルドは頷きながら続けた。


「そうだ。お前の力を活かせる場所だし、冒険者なら金もすぐに稼げるだろう。」


 隼人はゴルドに深く感謝し、鍛冶場の中でノアと合流した。

 ノアは鍛冶場の一角で隼人の様子を伺いながら、どうするかを考えているようだった。


「ハヤト、どうだった?ゴルドさんに何か言われたの?」


 隼人は軽く息をついてから、ゴルドの助言について話し始めた。


「ああ、冒険者ギルドに行って仕事を探せってさ。金を稼ぐには、それが一番だって言われたよ」


 ノアはその話を聞いて一瞬黙り込んだ。

 隼人がこの村を出て、大きな町や王都に向かうつもりだということを実感したのだ。

 彼がこの村に来てからまだ日が浅く、彼の状況が気になり始めた。


「ハヤト……本当に一人で行くの?」


 隼人は少し驚いた表情でノアを見たが、微笑みを浮かべながら言った。


「まあ、俺が行けるところまで行ってみようと思ってるんだ。方角さえ教えてもらえれば大丈夫だよ」


 ノアは深いため息をつき、少し考え込んだ。


「私は……ハヤトみたいに外の世界を知らない人を一人で行かせるのは……正直、心配。ハヤトはこの土地に明るくないだろうし……」


 隼人は少し考えた。

 確かにこの世界のことはほとんど知らない。

 ノアは悩みながらも、強く決心したように続けた。


「……ハヤト、やっぱり私も一緒に行くよ。私が道案内をする。……ハヤトを放っておけない」


 隼人はノアの言葉に驚き、そして感謝の気持ちを抱いた。


「ノア、ありがとう。でも本当に無理はしなくていいんだ。君にも生活があるだろう?」


 ノアは力強く首を横に振った。


「ハヤトのことを一人にする方が私にとっては不安だよ。それに少なくとも私が道案内すればハヤトも迷わずにすむし、少しは安心して旅ができるでしょ?」


 隼人はその言葉に深く感謝し、彼女の決意を尊重することにした。


「分かった、ノア。君が一緒に来てくれるなら、俺も安心だ。ありがとう」


 ノアは隼人の返事に少し笑顔を見せたが、その瞳にはまだ旅の不安が残っているようだった。

 しかし、それでも彼女は隼人を放っておけないと決断した。


 ノアが隼人と共に旅をする決断をした後、ふと背後から聞こえてきた重い足音が二人の会話を中断する。

 振り返ると、鍛冶屋の奥からゴルドが腕を組んで出てきた。


「おい、若いの。リーシャの友達なんだ、しっかり面倒を見ろよ」


 ゴルドが厳しい目で隼人を見据える。

 隼人はその視線に圧倒されながらも、しっかりと頷いた。


「もちろん、ゴルドさん。ノアに迷惑をかけないように気をつけます」


 だがゴルドは隼人の返事に満足する様子もなく、腕を組んだまま眉間にしわを寄せていた。


「ふん、まあお前がそう言うなら仕方ないが、ノアを連れて行くなら、お前にもそれなりの責任があることを忘れるな」


 その瞬間、ゴルドの後ろから勢いよくリーシャが飛び出してきた。


「そうそう!私も一緒に行くよ!ハヤト一人にノアを任せるのは心配だし、さっき話を少し聞いたけどさ、ハヤト、あんた変わった能力があるんでしょ?」


 リーシャは自信満々に言い放ち、笑みを浮かべた。


「リーシャ、あなたも行くの?」


 ノアが驚きの表情で問いかける。


「当然でしょ!私がいれば困ったときに助けてやれるし、ハヤトの能力もちゃんと見極めてあげるからさ!」


 リーシャは茶目っ気たっぷりにそう言いながら、隼人に軽くウインクした。

 ゴルドは深いため息をつき、苦笑いを浮かべた。


「娘はそれなりに腕もあるし、隼人、お前の体の秘密も一緒に見ておくのは悪くない。だが気をつけろよ。お前たちがどんな危険に遭うか俺にはわからんからな。それに隼人、お前のその体の不具合もまだ完全には直っていないだろう?……まあ、いいだしたら聞かない娘だから連れて行ってやってくれ」


 ゴルドの言葉に隼人は少し笑みを浮かべ、頷いた。


「わかったよゴルドさん。ありがとう、リーシャ。リーシャも一緒なら心強いよ。」


 リーシャはニヤリと笑いながら隼人の肩を軽く叩いた。


「いいってことさ!それに、私は旅なんて初めてで楽しみでしかないし、ハヤトの謎も興味深いからね。任せておきな!」


 ノアもその言葉に少しだけ表情を緩めたが、まだ不安そうな様子が残っていた。


「リーシャが一緒なら心強いけど……それでも、気をつけて行こうね。危険なことがあったら、無理はしないで」


 隼人はノアの言葉に優しく頷いた。


「もちろんだよ、ノア。無理はしないさ」


 ゴルドは二人のやり取りを静かに見守りながら、深いため息をついた。


「まあ、お前たちがそこまで決心してるなら止めはせんが、くれぐれも気をつけろよ。もし何かあればすぐに戻ってこい。いつでも鍛冶屋は開いてるし、必要なら手を貸してやるからな」


 ゴルドの言葉に、隼人は深く頭を下げた。


「本当にありがとう、ゴルドさん。助けが必要なときは、頼らせてもらうよ」


 ゴルドは軽く頷きながらも、その表情にはまだ一抹の不安が残っていた。

 隼人が感謝を伝えた後、ノアが軽快な声で話しかけた。


「じゃあ次は道具屋だね!旅に必要なものを揃えないと、安心して出発できないから!」


 隼人はその言葉に頷いた。


「確かに、準備が整ってないまま旅に出るのは無謀だな。ありがとう、ノア。さっそく行こうか」


 リーシャもそれを聞いて肩をすくめ、軽く笑いながら言った。


「じゃあ、私も準備が必要だし、明日の明朝に村の門で集合ってことでどう?」


 隼人はリーシャの提案に笑顔で応じた。


▼次の日


 翌朝、静かな村に鳥のさえずりが響き渡る中、隼人はこれから始まる冒険への期待と少しの不安が交じり合っていた。


「さて、準備は整ったか……」


 荷物を確認しながら隼人は自分に問いかけていると、ノアが寝室に入ってきた。


「ハヤト!おはよう。準備は大丈夫?」

「おはよう、ノア。ああ、大丈夫だよ。君こそ、無理してないか?」


 隼人がそう尋ねると、ノアは笑いながら首を横に振った。


「無理なんてしてないよ。私はハヤトを放っておけないって決めたんだから、心配しないで」


 ノアは明るくも力強く返事をする。

 昨日、ノアとリーシャと共に道具屋で揃えた旅の装備を背負い、気合いを入れる。


 「そうか、それじゃあ行こうか」


 隼人たちは準備が整ったことを確認し、家を出て村の門に向かう。

 すべてが未知の世界ではあるが心は不思議と落ち着いていた。


 ノアと共に村の門の前に到着し、他愛もないやり取りをしていると後ろから足音が聞こえた。

 振り返るとリーシャが元気いっぱいに駆け寄ってきた。


「やあ!待たせたか?いやぁ、準備に少し時間がかかっちゃったよ。でも、大丈夫、これで準備完了だ!」


 リーシャは大きなバックパックを背負い、笑顔を浮かべながら立ち止まった。

 彼女の後ろにはゴルドも立っていて、二人を見送るために来たようだった。


「リーシャ、気を付けて行って来いよ。お前たちもな」


 ゴルドは苦笑いを浮かべながらもどこか心配そうに娘を見つめている。

 リーシャは照れ隠しに肩をすくめてみせた。


「おやじ、心配しすぎだってば。大丈夫だよ、私がいれば何とかなるって!」


 隼人はそんなやり取りを微笑みながら見つめていた。

 彼自身、これから何が待っているのか全くわからないがこの二人がいることが心強かった。


 ゴルドは最後に隼人に向かって言葉をかけた。


「隼人、こいつらを頼むぞ。お前の体はまだ完全じゃないかもしれんが、信じてる。くれぐれも無理をするんじゃないぞ」


 隼人は力強く頷いた。


「ありがとう、ゴルドさん」


 ノアとリーシャもそれぞれ感謝の言葉をゴルドに伝え、いよいよ出発の時が来た。

 朝日がゆっくりと昇り、村の風景を黄金色に染め上げていく。


「じゃあ、行こうか!」


 ノアの掛け声と共に三人は村の門を通り抜け、冒険の第一歩を踏み出した。

 これから先に待ち受ける道のりは長く、険しいものになるだろうが、彼らは力強い一歩を踏み出したのだった。

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