第5話 鍛冶屋の技術

 村に着いた隼人とノアは、まず鍛冶屋を訪れることにした。

 ノアの友人が働いている場所であり、鍛冶屋の主人はドワーフ族だという。

 隼人にとっては初めて見る鍛冶場やドワーフの存在に少し興味が湧いていた。


「ここが鍛冶屋だよ。友達のリーシャがここで働いてるの。お父さんもドワーフで、村で一番の鍛冶職人なんだ」


 ノアが指さした先には立派な鍛冶屋があった。

 木と石を組み合わせた頑丈な作りの建物で、外には金属を叩く音が響いている。


「なるほど、ドワーフの鍛冶屋か……ちょっと楽しみだな」


 隼人は興味津々で鍛冶屋に近づいていった。

 鍛冶場の扉をノアが開けると、中から強い熱気が漏れ出てきた。

 鍛冶場の中央には太い腕を持つドワーフの鍛冶職人が立っており、彼は大きなハンマーで真っ赤に焼けた金属を叩き続けていた。


「よう、ノア!リーシャなら中にいるぞ」


 ドワーフの鍛冶職人は重低音の声で挨拶した。

 彼の名はゴルド。

 村では知らない者はいないほどの腕を持つ職人らしい。


「こんにちは、ゴルドさん!友達を連れてきました」

「おう、そいつはいい。鍛冶屋に用があるかい?それともリーシャに会いに来たのか?」


 隼人はゴルドの豪快な声に少し圧倒されつつも、旅の道具を揃えることを伝える為に口を開いた。


「俺は隼人です。ノアが旅の道具を揃えるならという事で、一緒に来ました」

「そうかそうか、じっくり見ていくといい。ああ、そうだリーシャなら奥にいる。おーい、リーシャ!ノアが来てるぞ!」


 ゴルドが奥に向かって声をかけると軽やかな足音が聞こえてきて、やがてリーシャが現れた。

 彼女はドワーフらしい頑丈な体格で、肩まである栗色の髪を後ろに束ね、仕事着のまま現れた。


「ノア!久しぶり!何かあったの?」


 リーシャは笑顔でノアを迎えた。

 二人は幼いころからの友人で、今でもよく会っているらしい。

 隼人は二人の親しげなやり取りを見守りながら、鍛冶場の道具や作品に目を向けた。


「ちょっとね、森で大変なことがあって……それでこのハヤトが助けてくれてさ、ハヤトが旅に出るから道具を揃えたいなって」


 ノアが隼人を紹介すると、リーシャはじっくりと彼を見つめ、好奇心に満ちた笑顔を見せた。


「へぇ、助けてくれたんだ。ありがとう、ハヤト!ああ、私リーシャ!私もおやじと一緒に武器や防具を作ってるから、役に立つものがあるかもね!」

「ああ、助かるよ」


 隼人は軽く笑いながら返した。

 ドワーフの鍛冶職人に会えたことも嬉しかったが、リーシャの明るさと気さくさに少し救われた気持ちだった。


 隼人とノアがリーシャと話している間、ドワーフの鍛冶職人ゴルドは隼人に向ける視線を増やしていた。

 彼の動きには何か独特なものがあり、ゴルドの職人としての直感がそれを感じ取っていた。


「お前こっち来な、……やっぱりちょっと変わってるな」


 突然ゴルドが隼人に話しかけ、鍛冶場の片隅へ呼びつけられた。

 隼人は一瞬驚いたが、すぐに笑って答えた。


「変わってるって……どういう意味ですか?」


 ゴルドは隼人の腕にじっと目を向けながら、深い考えにふけるような表情を浮かべた。

 彼は長い年月を生き、数多くの伝承や逸話を知っていた。

 隼人の動きはまるで普通の人間のそれではなかった。


「お前の動きだ。人間のそれじゃない……」


 ゴルドは何かを確信するかのように突然隼人の腕に手を伸ばした。

 驚いた隼人が反射的に腕を引こうとしたが、その瞬間、右腕がゆっくりと変化を始めた。


「……な、何だ!?」


 隼人自身も予想外の事態に驚いた。

 腕が機械のように変形し始め、あっという間にライフルの形状へと変わっていく。

 ゴルドはその様子をまじまじと見つめながら、興奮した表情を浮かべていた。


「ほほう……やっぱりな!」


 ゴルドは興味津々に隼人のライフルになった腕を観察した。

 彼の瞳にはまるで宝石を見つけたかのような輝きが宿っている。

 ドワーフとして、数百年の伝承を知るゴルドには隼人の存在が何か特別なものであることをすぐに察していた。


「これは、ただの人間の腕じゃねぇ……古の技術か?いや、もっと何か深いものがある……」


 ゴルドはライフルに変形した隼人の腕に触れ、その質感や仕組みを感触で確かめていた。

 彼の目は驚きと好奇心で輝き続けている。


「お、おい!どういうことだ!?なんでこんな……!」


 隼人は焦りながらも腕を戻そうとしたが、ライフルのまま動かない。

 ゴルドは微笑みながら軽く腕を撫でた。


「落ち着け、坊主。俺には分かる。この技術は、ただの魔法でも鍛冶でもない。お前は、機械だ……機動兵器、そうだろう?」


 その言葉に隼人の心臓が一瞬止まったような感覚を覚えた。

 ゴルドの言葉がその核心に触れていたのだ。


「機動……兵器……?」


 隼人は驚きと混乱の中、どう答えればいいか分からなかったが、ゴルドはさらに笑みを深めて語りかけた。


「伝承によれば、古の時代に人型の兵器が存在していたという話がある。その力を持つ者が再び現れたのかもしれないな」


 ゴルドは腕を戻そうとする隼人を見て、軽く手を振った。

 すると不思議なことにライフルは元の腕の形に戻っていった。

 隼人はようやくほっと息をついたが、ゴルドの言葉に心を揺さぶられていた。


「……お前は普通じゃない。だが、それが悪いことじゃない。むしろ、お前のような存在は、伝説になるかもしれないな」


 ゴルドは隼人の肩を軽く叩きながら、さらに興味津々な表情を浮かべていた。

 隼人はその言葉に何も返せなかったが、心の中では自分が本当に何者なのかを少しずつ理解し始めていた。


 隼人の腕が元に戻り、ほっと一息ついた瞬間、ゴルドはさらに興味を深めた様子で隼人の体を観察し続けた。

 まるで新しい発見をしたかのように、彼の目は輝いている。


「坊主、ちょっとこっちに来てくれ。まだ調べたいことがあるんだ」


 ゴルドは隼人を鍛冶場の更に奥へと案内した。

 隼人は戸惑いつつも、ゴルドの鋭い洞察力と熱意に抗えず、彼に従った。

 鍛冶場の奥にはいくつかの古い道具や技術書が並べられており、ゴルドはその中から1つの装置を取り出した。


「これは古い計測器だ。お前の体の中で、どの部分が動作していて、どこが機能していないかを調べられる。ちょっとじっとしてろ」


 隼人はその装置に触れられると、わずかな振動を感じた。

 ゴルドが装置を操作すると、隼人の体に一瞬だけ軽い電流が流れる感覚が走った。


「ほほう……やはり。お前のシステムはほとんどがダメになってるが、一部はまだ使えるようだな。特に武装系統は、右腕しか動作していない。だが、他の機能も少し工夫すれば使えるかもしれん」


 ゴルドは鍛冶場の机に戻り、何かを考え込んでいた。

 そして棚から小さな金属の箱を取り出し、それを隼人に見せた。


「これを見ろ。俺が昔作った特殊な合金だ。これをお前のシステムにうまく組み込めば、少しは他の機能も補えるかもしれん」


 隼人はその小さな金属片を受け取った。

 それは冷たく、光沢があって、明らかに普通の金属とは異なる手触りだった。


「これをどうすれば?」

「お前の体に埋め込む必要はない。これを使って、簡単な補助装置を作ってやる。今動いている右腕のライフル以外にも、他の武器や防具の補強ができるかもしれん」


 ゴルドは手際よく金属片を加工し始めた。

 火を灯し、鍛冶場で金属を叩く音が響く。


 しばらくしてゴルドは完成した機械のようなものを隼人に渡した。

 それは手のひらに収まるサイズで、まるで時計のような形をしていた。


「これは補助装置だ。これを体に装着すれば、少しは今の状態を補えるはずだ。特に防御機能を少し強化できる」


 隼人は感謝の言葉を口にしながら、それを慎重に受け取った。

 体の各部がまだ完全に機能していない彼にとって、この補助装置は非常に助かるものだった。


「ゴルドさん、本当にありがとう。これで少しは役に立てるかもしれない」

「礼なんていらんさ。お前みたいな奴は、俺にとっても興味深い素材みたいなもんだ。だからこそ、もっと強くなってもらわないとな」


 ゴルドはニヤリと笑い、隼人の肩を叩いた。その言葉には職人としての誇りが感じられた。

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