第4話 村と次の目標について
翌朝、太陽がゆっくりと空に昇り、柔らかな光がノアの家の窓から差し込んだ。
静かな夜が明け、静寂を破るように鳥のさえずりが響いていた。
隼人は目を覚ますと、天井を見つめながらしばらくぼんやりと考え事をしていた。
昨日の出来事が頭の中で夢か現実かを問いただすように回っていた。
ライフルに変形した自分の腕、オオカミを撃退したシステムの声――すべてが現実だったのか。
そんなことを思いながら静かに起き上がる。
「ふぅ……本当に異世界なんだな」
隼人はまだ信じがたい気持ちを持ちながらも、目の前の現実に向き合うしかないことを理解していた。
外の空気を吸い込み、肩を軽く伸ばすとふとドアの方から物音が聞こえた。
「おはよう、ハヤト」
ノアが寝室に入ってきた。
彼女は簡単な朝食を準備している様子で、テーブルにパンとスープが並んでいる。
隼人はにこやかに挨拶を返しながら、テーブルに向かった。
「おはよう。昨日はありがとう。よく眠れたよ」
「よかった。それなら安心した」
ノアは笑顔を見せるが、まだ少し気まずそうにしていた。
昨日の出来事があまりにも異常で、彼女にとっても受け入れがたいことだったのだろう。
彼女は隼人の腕に少し視線を送りながら、言葉を探しているようだった。
「ハヤト、昨日のことなんだけど……あなたの腕、あれは一体何だったの?」
ノアが意を決して尋ねる。
隼人もそれについては答えなければならないことを感じていたが、すぐにすべてを話すべきかどうかは迷っていた。
まだ自分でもこの世界や自分の体について完全に理解しているわけではないからだ。
「正直、俺にもよくわかってないんだ。ただ、あの時は無意識に体が動いて、気づいたらオオカミを倒してた」
「そうだったの……」
ノアは少し驚いたように目を丸くしていたが、それ以上追及しようとはしなかった。
彼女も昨日の隼人の行動が命を救ってくれたことに感謝していたが、隼人自身がその力について理解していないと知り、無理に聞くべきではないと思ったのだろう。
「でも……本当にありがとう。もしハヤトがいなかったら、私は……」
ノアは言葉を詰まらせながらも、隼人に向けて感謝の気持ちを再び伝えた。
隼人は彼女の表情を見て少し照れくさそうに笑いながら手を挙げた。
「いや、気にしなくていいさ。無事だったならそれで十分だ」
二人は朝食をとりながら、しばし静かな時間を過ごした。
外では鳥の鳴き声と風の音だけが響いており、穏やかな朝が流れていく。
「ハヤト、今日はどうするつもり?」
ノアがふと尋ねた。
彼女の表情には何か助けを求めるような、少し不安な色が浮かんでいた。
彼女は今も一人で家に暮らしているが、これから先も隼人がここにいるのか、それともすぐに去ってしまうのかを気にしているようだった。
「俺もこの村のことがまだわかっていないから、村に行くつもりだ」
隼人はそう答えながら村に行く理由を考え始めていた。
この世界での生活や、少なくとも自分の存在を理解するためには村の情報が必要だ。
さらに村に泊まる場所があるならば、それも重要だろうと感じていた。
「そう……それなら、村に行くなら私も一緒に行くよ。村には友人もいるし、何か手助けできることがあるかもしれないから」
ノアは少し安心したように微笑んだ。
彼女は隼人に対して強い信頼を感じ始めていた。
彼の行動や性格が、自分を守ってくれたことがその理由だろう。
「ありがとう、じゃあ、もう少ししたら村へ向かおうか」
隼人は立ち上がり軽く体を伸ばすと、外の空気を吸い込んだ。
食事が終わり、ノアと隼人は森を抜けて村への道を歩き始めた。
朝の空気はまだひんやりとしていたが、太陽が上がるにつれて少しずつ暖かくなってきた。
森の中を抜ける小道は木々の間に光が差し込む美しい景色だった。
「村まであと少しだよ。歩いてもそんなにかからないはず」
ノアが前を歩きながら明るい声で言った。
彼女の歩き方は軽快で、昨日の恐怖が少しずつ消えていくのが感じられた。
隼人もその後ろを歩きながら森の風景や鳥のさえずりを楽しんでいたが、次のステップをどうするかを考えていた。
「ところで、この国ではどうやって生活するんだ?お金を稼ぐ方法は?」
隼人は現実的な問題を考えながら、ノアに尋ねた。
彼がこの世界でどう生きていくのか、生活の基盤を築く方法を知る必要があった。
「お金は、仕事をして稼ぐのが普通だよ。たとえば畑仕事や商人として物を売ったり、あとは冒険者になって依頼をこなす人もいる」
「冒険者か……やっぱり異世界らしい職業があるんだな」
隼人は異世界ならではの要素に感心しながらも、自分がこの世界でどのように生き抜いていくかに考えを巡らせていた。
「でも、すぐに冒険者になれるわけじゃないよ。冒険者ギルドっていう場所で登録しないといけないんだ。村にはギルドはないけど、大きな町に行けば見つかると思う」
「なるほど……。じゃあ、その大きな町に行くしかないな」
隼人は即座に決断した。
村に長く留まるつもりはなく、できるだけ早く町に向かい、冒険者としての活動を始めたいと考えていた。
準備自体は整っていないが、「まあ、何とかなるだろう」という彼の性格がそんな状況を軽く乗り越えさせていた。
「大きな町までの道のりは少し遠いけど……。大丈夫?」
ノアは少し心配そうに隼人に伝えたが、彼の決意は固かった。
「大丈夫さ。準備なんてまだできてないけど、まあ、何とかなるだろう。そういうものだろ、旅ってのは」
隼人が自信満々にそう言い切ると、ノアは少し苦笑いしながら肩をすくめてツッコんだ。
「ふふっ、そういうものかな?でも、あんまり無計画だと大変なことになるかもよ?」
彼女の柔らかいトーンに、隼人もつられて微笑む。
「ま、大丈夫だって。今までも何とかしてきたんだからさ」
「それもそうかもね……なんだか、ハヤトなら不思議と何とかしちゃいそうな気がしてきた」
ノアは軽く笑いながら、彼の楽観的な性格を認めつつも心配が完全に消えたわけではなさそうだった。
しばらく歩くと森が少し開けてきて、遠くにいくつかの家が見え始めた。
村が近づいている証拠だった。
「もうすぐ村だよ。村に着いたら、旅の道具を揃えなくちゃね」
ノアは楽しそうにそう言いながら村の道具屋や鍛冶屋をどこから回ろうか思案していた。
「ありがとう。早めに大きな町へ向かって、冒険者にならなきゃな」
隼人は村で長く留まることなく、冒険者になる為、次の目的地である町へ向かうことを決めた。
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