第9話

『じゃあ、兄貴。』



「却下。偉そう。」




そうだ、確か中学生になったときからだ。


友達が自分の兄のことを"兄貴"と呼んでいて、その呼び方にカッコよさを覚えたあたしは





[ねぇ、これから兄貴って呼んでいい?]



[…却下。]



[えー!なんでぇ?]



[偉そうでムカつく。]




4年前、まさに同じような会話が繰り返されていたのだ。


"あま兄"と呼び始めたのは、兄貴と呼ばせてくれなかったあま兄への、せめてもの反抗だ。





『あま兄。』



「雨音。」



『どっちでもいいって、そんなこと。ほら、もっと詰めてよ。』




ごくたまに、全然成長しない自分たちに妙な嬉しさを感じるときがある。





「どっちでもいいなら、雨音様と呼べ。」



『それは却下ー。』




チッと舌打ちしながらも、あま兄は場所をあけてくれた。


ベッドの端に腰を下ろし、布団の中に足を滑り込ませる。



微かに残る、あま兄の体温。指は冷たいくせに、中はすごく温かかった。





あたしはこの瞬間が一番好きなんだと思う。


自分の体温と、あま兄の体温。



二人の体温が混ざり合い、包み込まれているような感覚に、心が酷く落ち着く。





「温めてくれるんだ?」

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