第7話

「…な、里菜子…?つか、今何時?」



『19時23分。』



「…あー、やべ。遅刻だ。」



『デート?』



「違う、バイト。」



『…、』




…バイト


あま兄が口にした言葉を、頭の中でゆっくりと復唱させた。



コンビニとか、ファミレスとか。あま兄の言っているバイトがそんな類のものじゃないってことくらい、当の昔から知っている。




あま兄のバイト。あたしは、嫌いだ。





「…リナ?」




うつむいていると、ダルそうに上半身を起こしたあま兄に、やっぱりダルそうに名前を呼ばれた。


低血圧だから、まだ頭の働きが完全ではないのだろう。



相変わらず、指は冷たいままだし。





『なに?』



出来るだけ、普通の声で返す。





「寒い。」



『は?』



「さーむーいー。」



『主語を言え、主語を。』




昔からそうだ。


あま兄との会話はどうも上手く噛み合わない。



言語理解力に苦しむ。まさにそんな感じ。





「リナ。」



『なによ。』



「少し、温めて、俺を。」




あま兄が、ポツリポツリと言葉を紡いだ。

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