第2話

ふと小さい頃の思い出に浸っていたとき。


さっきまであたしの身体に覆い被さっていた男が、ダルそうに寝返りを打ちながら言った。


ベッドサイドにあるスタンドが男の顔をぼんやりと照らし、かすかに汗ばんだ肌が、たった今していたことを明らかにしてくれる。




『少しは控えたら?』




そう言いながら、あたしは彼愛用のマルボロ赤を1本咥えさせる。




「ねぇ、元気ない?」



『そう?』




火をつけてやると、男は「ずっと上の空だった。」と煙を吐いた。


自覚はあった。


現に思い出してしまった幼い頃の記憶が、今もまだ鮮明に頭のど真ん中に残っていたから。




『そんなことないよ。』




しかし、腑に落ちない表情の男に、仕方なく笑顔を見せてやる。


つまらない昔話なんて、誰かに聞かせたってつまらないだけだ。




「ならいいけど。なぁ、それよりもう一回。」



『今日はダメ。』



「は、なんで?」



『兄貴、起こさないといけないもの。』




ベッドの周りに散らばった制服を拾い、「兄貴?」不思議そうに首を傾げる男にもう一度微笑んでから部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る