第一章-家族-

二人きり

第1話

例えば雨の日の帰り道。


長靴にレインコートを羽織った幼稚園児くらいの子供が、母親に手を引かれながらバシャバシャと水溜りを蹴ってはしゃいでいたとき。


[こーら]


と言って、注意するその母親の声を酷く羨ましがったことがある。




例えば晴れた日の日曜日。


青空の下、公園にレジャーシートを広げる家族連れ。


[お昼にしましょうか]


聞こえるのはにっこりと微笑む母親らしき女性の声。



[キャッチボールしよう!パパ!]



[少しは上達したか?]



[あたりまえじゃん!]



その会話のように飛び交うボールを、ひどく憎たらしく思ったことがある。




そんな一般家庭の風景を、あたしはいつも古びたアパートの中から眺めていた。


鉄格子の窓ごしに。


たった一人きりで。


あたしの両親は、あたしが産まれてすぐに離婚した。



母はその日その日の食事を確保するため、毎日朝から晩まで働いていた。


昼間はスーパーのパートとして。


夜はスナックのホステスとして。


"もう疲れた"と、母は口癖のようによく言っていた。



物心ついたときからずっと、あたしは一人ぼっちだ。




「なぁ里菜子。煙草とってくんない?」

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