第22話

こういう奴がいるから、だからリナが悲しむんだ、と。


俺は自分の髪をくしゃくしゃと掻き乱し、舌打ちの代わりに彼女から視線を外してやった。



目を伏せる際、彼女の瞳が傷ついたように揺れたことにはあえて気づかないフリをする。




やっぱり母親と双葉サンじゃ似てないな。と、あらためてそう思わされた。





「…その連れ子を、雨音君は相当可愛がってるわけだ…?」




半信半疑、そんな彼女の視線をヒシヒシと横顔に感じる。


離れた肌は急激に冷え、ぼんやりとした明かりの中に彼女の汗ばんだ身体が淋しげに浮かぶ。





「…ねぇ、本当に妹…?」



『他になにかあります?』



「そうは見えなかった。」



『じゃあ忘れて下さい。』




そんな風に見えたなら。


そう付け加え、俺は完全に双葉サンとの距離を取った。



ベッドの端に腰かけたまま、ふと煙草が吸いたいと、意味もなく宙を仰ぐ。





ただ、見る限り灰皿はない。


あるのは部屋の大部分を占めるベッドと、それと、シンプルなチェストが部屋のすみに置かれてるだけ。



俺は小さく息を吐き、ベッドに座り込んだままの双葉サンに向き直ると、彼女は少しだけ驚いたように顔を上げた。




それを見て、『あのさ、』そう紡ぐ。





『知ってます?身体を重ね合わせるだけの行為に、そんな事情、必要ないんですよ。』




シンプルな部屋。


スタンドの明り。



身体はぐちゃぐちゃに乱れたシーツの上をただ泳ぐ。




欲にまみれるには十分すぎるほどの空間。




…なにもかも忘れさせてくれればそれでいいと思った。

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