第19話

ここへ着いてすぐ、彼女が俺を見ていたことは知っていた。


それがどんな意味を持っていたかなんて、彼女の熱っぽい瞳を見ればすぐに分かる。



ガキの頃から年上の女を相手にしてきた俺は、必要以上に慣れすぎていたから。





「…いつ、気づいたの…?」




淡いオレンジ色のベッドスタンドに照らされて、汗ばんだ身体がシーツの波をじれったそうに泳いでいる。


パリッとしていたシーツはいくつものシワを作り、ぐちゃぐちゃに乱れたそれが、欲にまみれた二人をただ見つめていた。



そんな意味のない行為が繰り返される中、まぶたの裏側に潜んだ瞳がふいに俺を映し出す。





「…あたしが、あなたを、見てたって…」




うっすらと額に光る汗。


漆黒の髪は束を作り、その隙間から覗く瞳はベットスタンドのオレンジと涙で滲んでいる。



双葉サンは途切れる息遣いに顔を歪ませ、乱れた呼吸を整えるようにして肩を揺らした。





『泣くほど嫌でしたか?』




俺と、こういうことするの。


そう付け加え、今にも溢れそうな涙をそっと指ですくう。



わざとらしく目を細めれば、案の定、双葉サンは悔しそうに眉を寄せた。





「…やっぱムカつくわ。年下のくせに…」



『その年下に興味を持ったのは双葉サンでしょう?』



「…、」




フッと笑い、途端、ベッドに沈んだ背中が大きく跳ねる。





『知ってました。最初から。俺ね、昔からそういう勘だけは鋭いんです。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る