第18話
「…たぶん、まだ広間のほうにいたと思いますけど…」
『じゃあすぐに荷物をまとめて帰るように言って下さい。』
「は…?」
俺の妹ゆえに、あいつに向けられる視線もきっとまともなものではなかっただろう。
母方の実家で、毛嫌いされてる父親の再婚相手の連れ子となれば、それは尚更のこと。
あいつはそんなこと一切口にしなかったけど、でもそういうことを一番に気にするってことくらい、俺は嫌ってほどよく知っている。
俺自身、リナをあいつらの視線なんかに晒したくない。傷つけたくないと思った。
たとえどんな手を使おうとも。
『…双葉サン。』
小さく呼んで、未だ警戒心を解こうとしない彼女を真剣な眼差しで見据えた。
強気に満ちた表情の中、わずかに揺れる瞳に俺はつけ込む。
ズルくても、こういうやり方しか思い浮かばない。
リナをここから遠ざけ、壊れかけた俺から守るために。
『寝床と引き返えに、俺を、数日買ってくれません?』
唇の端を上げ、双葉サンのまとまった髪にスッと指を通した。
ほどけた髪の隙間から、大きく見開いた瞳が俺を信じられないといった様子で見つめている。
「…なに、言って…」
『ずっと、見てましたよね?』
「なっ、自意識過剰なんじゃないですか…!?」
『そうかな。』
クスッと笑えば、鋭い目つきが今にも噛みつかんと言わんばかりに睨みつけてくる。
が、赤く色づいた頬は酷く正直だと思う。
その頬を撫で、アゴをクィッと持ち上げれば、彼女はもう自分に嘘をつくことはないだろう。
『…俺と、続き、しません?』
耳元で囁いて、薄い口紅の引かれた唇にそっとキスを落とす。
その証拠に、彼女は重なった唇を拒もうとはしなかった。
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