第17話

口元だけで笑い、俺も後を追うようにして立ち上がる。


一晩、動かしてなかった関節は多少の悲鳴を上げたが、でも今度はちゃんと意思通りに動いてくれる。



リナのときは全然ダメだったのに、他人の前ではこんなときですら強気でいれるらしい。




俺は顔に笑みを貼つけたまま、部屋の入口で立ち尽くしている双葉サンに歩みを寄せた。


歩みを寄せて、ふいに強くなる甘ったるい匂い。香水。





『朝食、いりません。』




手を伸ばせば、すぐに触れることの出来る距離に彼女はいる。


頭いっこ分低い位置にある顔が上を向き、さらに距離を詰めようと足を滑らしたとき。



小さく上がった肩と、わずかに後ずさりした彼女を俺は見逃さなかった。





「…な、んですか…」




未熟な心とは裏腹に、こんなくだらない洞察力だけが鋭くなっていく。


こんな自分。



浅ましくて、卑怯で、ずる賢くて、吐き気さえ覚えるっていうのに。




なのに、俺はこういうやり方でしかあいつを守れない。




そういうやり方しか知らない。





『リナ、まだここにいます?』



「り、な…?」



『妹です。』




首を傾げた双葉サンに、俺は補足するように言ってやる。


半信半疑、不思議そうな表情が「…あぁ、」と漏らし、警戒心に満ちた瞳が控えめに俺を見つめた。

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