第9話

この距離が果てしなく遠い。


寒いな、と、そう思った。



母が死んでから、寒さに怯える俺を救ってくれたのは、間違いなく目の前にいるリナだったから。





互いに敵意をむき出しにしながらも、いや、一方的にはリナが俺を拒んでたんだけど。


それでもリナは文句を言いながらも俺を温めてくれた。



あの闇に染まった部屋の中、肩を並べるには少し小さいシングルベッドの中で。




母もよく、ベッドに潜り込んできては俺を温めてくれたっけ。





『…リナ、』



「ん?」



『…死んじゃったって。』




こんなこと、リナに言ったってどうしよもないのに。


なのに、止まらない。



母のあとがまとなった温もりは、今は俺を追い詰める要素でしかないっていうのに。




なのに、それを無性に欲しがってしまうのは、少なからず俺が母親の死にこたえているからだろうか。





『…俺、どうしようか…、』




そっと手を伸ばし、頬に触れるか触れないかくらいの距離でリナを見つめた。


不安げに揺れる瞳を捕らえながら、この距離が酷くもとがしいと思う。



この温もりに触れることを躊躇うようになったのは、一体いつ頃からだっけ。




リナが小学生のうちは、間違いなく抱きしめるくらいは簡単だったのに。





「…あま兄…?」



『…らしくない、な。』



「え…?」




俺らしくない。


"家族"を望むリナに、俺がこんなことを思うなんて。



こんな家族ごっこ、俺が望んでないと知れば、リナはボロボロに傷ついてしまうのに。




俺は小さく首を振り、出しかけた手をスッと引っ込めた。





「あま兄…?」




小さく息を吐く。


吐いて、リナを見据えて、激しい空虚感に襲われる。

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