第3話

16歳で俺を産み、カケオチ同然で結婚した母が。


若くて、明るく度胸だって据わってたはずなのに。


なのに。


俺が母との別れに対して、泣くことも引き止めることもしなかったから、だからあんなにも悲しそうに頬を濡らしたのかもしれない。




[…別に、平気。]




泣きじゃくる母に、高揚のない声でそう言ったのを覚えている。


狭い狭い子供用のシングルベッドの中で、窓に弾かれるあまおとを聞きながら。


その日、重なる手の温もりとは裏腹に、ひとりぼっちのベッドの中は凍えるほど寒かった。




[…風邪、引かないようにね?布団も、ちゃんとかけなきゃダメなんだからね?]



[平気。子供じゃあるまいし。]



[ばぁーか、雨音は正真正銘の子供でしょうが…]




俺を見つめ、母は柔らかい笑みを浮かべた。


まだ黒かった髪を梳き、握りしめた手をそっと解く。




[…おやすみ、雨音。]



[ん、おやすみ。]




薄暗い部屋の中。


温もりに溢れていたベッドは、凍えるほど寒かった。



俺は助けて、と。


心の中で意味もなく呟いた。

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