第一章-記憶-

ツイオク

第2話

窓辺を伝うのはしっとりとしたあまおと。


降りしきる雨はガラスに弾け、雫となった破片が幼心にチクチクと積み重なってくる。


あれは確か4歳のとき。


ベッドに入り、眠りにつこうと重くなりかけたまぶたを下ろそうとしたときだ。




[お父さんとお母さんね、離婚することになったの。]




昔から心臓の弱かった母親に、俺は唐突に別れを告げられた。


原因は父親の浮気。


両親は最後まで親権のことで争っていたが、でも結局は母の心臓が悪いのを理由に、この離婚騒動の軍配は父親のほうにあげられた。



つまり、俺は父親のほうに引き取られるらしい。




[…ごめんね?お母さん、雨音のこと守れなかった。]




長いまつげを濡らし、母は何度も頭を下げていた。


俺の手をキツく握りしめ、小さなベッドの上でいくつもの別れを並べていく。


母の丸まった背中は酷く小さくて、いつもの負けん気溢れる性格からは想像もつかないような一面に困惑したのを覚えている。



外は雨。


明日もきっと雨。


たまたま寝る前に見ていた天気予報が、明日も一日中雨だと告げていたから。


心地良いあまおとに、母の啜り泣く声がリンクする。




[雨音、ごめん、ごめんね…?]




あの頃の自分はやけに大人びていた。


泣くことも、喚くことも、批難することもせず、ただ突きつけられた現実を事務的に受け止めようとしていた。



だから母は声を上げて泣いたのかもしれない。

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