第一章

第3話

「あれま、なっつんにしては浮かない顔してんじゃないのー?」




机に突っ伏していると、ふいに間延びした声で話しかけられた。


声の正体などいちいち確認しなくたって分かる。


常に陽気でバカっぽい喋り方をするのは佐野だ。



俺は腕の中に埋めていた顔をわずかに上げて、


『…うっせ。』


あからさまに眉を寄せて突っぱねた。




「相変わらず俺に冷たいよね。なっつんてば。」




HRを終え、それぞれが会話に華を咲かす休み時間。



ヒドいよねー!


冷たいよねー!


鬼畜だよねー!


俺、めちゃくちゃ傷つくんですけどー?


なんて、大袈裟に泣き真似をする佐野に傷ついた様子はこれっぽっちも見えない。



わざと目を擦る佐野を疎ましげに眺めていると、佐野も泣き真似するのにようやく飽きたのか、俺の前の奴のイスを勝手に引いて「それにしてもさぁー」と、何の断りもなしにドカッと腰かけてしまった。




『…なに勝手に座ってんだよ。』



「いいじゃーん、べつにー!俺のモノは俺のモノ!お前のモノも俺のモノ!ってね?」



『違くて…、俺の前に座んなって言ってんの。』



「うわ、ひっど!」




あぁ、うるさいうるさい。


普段、こんなふうに誰かを蔑ろにすることはないのだが、むしろ夏海君って喋りやすいよねー!と言われちゃうほど人当たりはいいのだが。



しかし、ガキの頃から一緒にいる佐野が相手だと話は別だ。


家が隣同士だったせいか家族ぐるみでの付き合いだったし、男同士だったせいか、兄弟同然のように育てられてきた。


殴り合いのケンカなんかしょっ中だし、思春期特有の悪いコトだって一緒にやった。

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