第2話

あぁ、そうか。


そうだったのか。


パン――…!と、目の前で風船が弾けた瞬間、ようやく意識が覚醒した。



なぜ自分は倒れたまま動かないのか。


なぜ自分の周りを人が忙しなく取り囲むのか。


道路のど真ん中に寝転んでいる自分。眠ったままアスファルトに縫いつけられている自分。すぐ傍では車が不自然な方向を向いて停車していて、そこから降りてきた運転手らしき男は、落ち着かない様子でその場を行ったり来たりしている。



その姿は俺から見ても滑稽だった。


滑稽すぎて笑いすら出てこなかった。


気づいたらその姿を冷めた眼差しで見下ろしていて。


そのうち救急車が到着すると、あいつらは道を占拠している俺を撤去するかのように、横たわる身体を運んでいった。



耳をつんざくようなサイレンが遠ざかっていく。


不協和音を奏でながら遠ざかっていく。


ただ、いつもは息子のどんなバカにも寛大だった母親が泣き喚いているのを見たとき。


泣き喚いて、取り乱して、連れて行かれそうな俺に必死にしがみついている姿を見たとき。




『――…、』




あぁ、俺。


死んだんだなって、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る