第18話

「連れてってくれるの?」


「どうしようかなー」


「何それ」


「だって地味に自転車漕ぐの疲れるんだもん」


「それ遠回しにあたしが重いって言ってる?」


「いやいやまさか。俺の体力、学生の頃のまま止まってんのよ。見た目こんなだけど」


「……、」




自身を一瞥して肩を竦めた夏海。思わず瞳を揺らしたあたしに「だから…」優しげに微笑む。




「旦那に連れてってもらいな?」




そっと諭す言葉はどこか晴れ晴れとしていて。


「夢じゃ、本物の海は見れない」


窓の外。星に馳せる瞳はどこか寂しだった。




「香澄だって本気で俺に連れてってほしいとか思ってないだろ?」


「なつ、み…」


「大丈夫。海なんていつでも見れるよ。俺がいなくても、香澄にはちゃんと寄り添ってくれる奴がいる。だから、そんな顔すんな?」




夏海の手があたしに触れる。髪を撫でられた気がしたが、触れられた感覚はなかった。


それが、あたしと夏海の距離だと思った。




ちりん、と風鈴が揺れる。


夏海が笑う。


やがて音もなく夜が明けていく。


そろそろ朝か――…、そんな言葉を置き去りに夢が遠のいていく。

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