朧月夜(7/17NEW)

第15話

七夕に対して美しい幻想はない。


短冊に願い事を書かなくなったのは一体いつの頃だったか、織姫と彦星の由縁を知ってからは天の川を見上げることすらなくなった。


ここ数年は気づいたら笹が飾られていた、と言ってもいい。


街の至るところに飾られた笹がさらさらと揺れて涼しく思うことはあっても、虫の音も寝静まった深夜、目覚めた夜は寝苦しかった。



窓を開けていても風を感じることは出来ず、湿気を孕んだ熱が絶えず不快感をもたらす。


あたしはベッドに寝転んだまま目線だけを足もとへ下げた。


幽かに人の気配がした。いや、本当に人の気配だったのかは分からない。ただ背中を包むシーツは汗を吸ってじわりと熱もっている。


汗ばんだ皮膚を撫でる暗闇は冷たかった。




「これは夢?」




呟いてから気づく。


誰もいない部屋で呟くにはやけに大きな独り言だった。


夫である圭吾は昨日から出張に行っているためここには居ない。会社から帰宅するなり申し訳なさそうに苦笑した圭吾は、その控えめな物腰とは裏腹に数日分の劣情を激しくあたしに求めた。

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