第13話

「…どうしたの?」




気配が遠ざかっていくのに気づいて、あたしは恐る恐る目を開く。


すると、態勢を整えた圭吾が、苦笑を浮かべてあたしを見ていた。




「いや、さすがにここでキスするのは軽率だったかなと思って」


「え?」


「夏海君の前ではフェアでありたいからね。狡して勝ったって嬉しくも何ともないだろう?」


「圭吾…」




手を合わせ、そっと瞼を下ろした圭吾。あたしたちの間をさっきとは違った雰囲気の静けさが流れる。


一体何を思って手を合わせてくれたのかは分からないが、でもその横顔は、心は、真剣に夏海を見ていた。捉らえていた。


こんなふうに過去を尊重してくれる圭吾はやっぱり大人で。あたしには勿体ないほどの男性だと、端正な横顔を見つめながら思った。



でも、だけど――…

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