第5話
「水、汲んでこようか?」
「うん、お願い」
水を汲みに行くという圭吾を見送り、あたしは墓石の前に腰を下ろした。
ユリやトルコキキョウ。優しい色合いでまとめられた花を足元へ置き、供物として買った桜餅を供物台(くもつだい)へと載せる。
桜餅が夏海の好物かは分からないが、でも石材を彩る桜餅は色鮮やかだ。これなら夏海も喜んでくれるんじゃないかな、と、風に攫われそうになった髪を耳にかけた。
「夏海…」
無意識にカタチとなる名前。
こんなふうに彼の亡骸を前にしても不思議と涙は出なかった。
虚しさや哀愁もなく、加瀬と刻まれた石牌をぼんやりと見る。
「遅くなってごめんね」
ここへ来るまで随分時間がかかってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます