第5話

「水、汲んでこようか?」


「うん、お願い」




水を汲みに行くという圭吾を見送り、あたしは墓石の前に腰を下ろした。


ユリやトルコキキョウ。優しい色合いでまとめられた花を足元へ置き、供物として買った桜餅を供物台(くもつだい)へと載せる。


桜餅が夏海の好物かは分からないが、でも石材を彩る桜餅は色鮮やかだ。これなら夏海も喜んでくれるんじゃないかな、と、風に攫われそうになった髪を耳にかけた。




「夏海…」




無意識にカタチとなる名前。


こんなふうに彼の亡骸を前にしても不思議と涙は出なかった。


虚しさや哀愁もなく、加瀬と刻まれた石牌をぼんやりと見る。




「遅くなってごめんね」




ここへ来るまで随分時間がかかってしまった。

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